湯呑茶碗

「倫理を学んで本当に経営に役立つのだろうか」と言う人がいる。実際に今学んでいる人の中にもそう思っている人がいる。こればかりは本人次第のようである。先日、ある講師が同様の質問を受けた際に次のような実話を紹介していた。「なるほど」と思ったのでここに載せておくことにする。

Kさんは中小企業の社長である。社員の定着率の悪さに悩んでいた。なかなか人が集まらないところに、今いる社員も何か文句を言うとすぐに辞めていってしまう。辞められると困るので言いたいことも言えずに悶々としていた。紹介されて倫理法人会に入会した。しばらく経った時に「倫理指導」という個別相談を受けてみることになった。どう社員に向き合えばいいのかを相談したかったのである。指導員は倫理研究所の先生である。Kさんが会社での悩みを話し始めると先生は家庭の中のことをいろいろと聞いてきたそうである。

「いえいえ、先生、私の悩みは家庭のことではありません。会社のことなんです」

それでも先生は家庭のこと奥さんのことばかり聞いてくる。「これではいくら相談しても意味がない。私の悩みと全く違っていることしか答えてくれない。もういい。帰る」と席を立ったそうである。

「そうですか、それでは仕方ありません。しかしKさん、ご自宅に戻られましたら奥様にこれだけは聞いてみてください。俺に言いたいことは無いかと」

家に戻ったKさんは何となく先生から言われたことが気になって、奥さんに聞いてみたそうである。

「俺に何か言いたいことがあるかどうか聞いてみるように言われたんだけど、何も無いよなぁ」

すると奥さんは「そうですか。それでは折角ですから言わせていただきます」と言ってそれから2時間、延々とKさんへの不満を並べたそうである。驚いたのはKさんである。人並み以上に頑張り、お金を稼ぎ、いい家に住んで、何ひとつ文句などあろうはずがないと思っていたところでの2時間である。唖然として聞いていたそうである。自分の湯呑茶碗がよく変わることには気付いていたが、それは奥さんがKさんに不満を言えずに自宅の塀に向かって湯呑を投げ付けて割っていたせいだったことも判明したのである。

そのことでKさんは如何に人の話を聞かずに身勝手に過ごして来たかを気付かされたのである。一番身近にいた奥さんのそうした思いも知らずに、なぜ他人である従業員のことが分かるか。気付いたKさんはすぐさま従業員の前で反省の弁を述べ、全員に向かって頭を下げたそうである。従業員との対話が始まり、前向きになり、それ以降は一人の従業員も辞めていないという。

しばらくしてのこと、ある従業員が定年で退職していった。その翌日、見知らぬ若者が入社を希望して会社を訪ねてきた。採用予定はなかったが話を聞いてみると前日退職していった人の息子さんである。「父から言われました。いい会社だから頼んで入れてもらって来い」と。Kさんは大いに泣いたそうである。あれほど人が辞めて困っていた会社がこうも変わってくれたかと泣けて泣けて仕方なかったそうである。

倫理法人会ではたくさんのことを学ぶ。人それぞれに学び方は違っているかも知れない。そしてその教えを生かすかどうかもその人次第である。「気付いたらすぐに行動」ともいい、「実践してこその倫理」とも言われる。悩んでいない人はいない。悩んでいてもその正しい解決方法が分からない人がほとんどである。全ての人を幸福に導く素晴らしい教えが倫理である。

                   (2017.9.16 倫理研究所 方面長「講話」より)

横浜市倫理法人会

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